Orchid PGT-WGSで “見えない遺伝リスク” を可視化するスタンフォード発・全ゲノム着床前検査の基礎知識

Akira Watanabe
01 Oct 2025

はじめに

染色体数を調べる PGT-A だけでは拾えない遺伝リスク――たとえば新たに生じた(de novo)変異による自閉症や小児がん――に関心を持つご家族が増えています。

ここでは、スタンフォード大学などの研究陣が開発した Orchid PGT-WGS(Whole-Genome Screening)について、臨床導入の実際と留意点を中心に整理しました。検査を検討する際の参考にしてください。

1. Orchid PGT-WGSとは

  • 胚DNAの > 99 % を解析し、
    • PGT-A(染色体数)
    • PGT-M(特定の単一遺伝子疾患)
    • de novo変異
    • 多因子疾患の遺伝リスク(GRS)
    • を同時に評価できる一括スクリーニング。
  • 200 以上の自閉症・知的障害関連遺伝子、900 以上の先天性異常遺伝子、90 以上の小児・成人がん関連遺伝子をカバー。

【図や表が用意できれば:従来PGTとPGT-WGSの検出範囲比較】

2. 従来検査との違い(早見表)

項目 PGT-A PGT-M PGT-WGS
主目的 染色体数 家族歴疾患 染色体数+単一遺伝子+de novo+GRS
読み取るゲノム範囲 約 1 % 約 1 % > 99 %
追加情報 家族歴がある疾患のみ 自閉症・先天性異常・慢性疾患リスクなど

3. 検査フロー(目安:採卵から約 2 週間)

  1. 採卵・胚培養(Day 5–7)
  2. 胚生検(数個の細胞を採取)→ 凍結保存
  3. 全ゲノム解析
  4. 遺伝カウンセリング(結果説明・選択肢の整理)
  5. 正常/低リスク胚を選択して移植

4. どのような方に検討価値があるか

  • 染色体数が正常でも心配が残る場合
  • 家族歴のない重篤疾患(de novo変異)のリスクを抑えたい場合
  • 海外在住や長期滞在が難しく、1 サイクルで多項目をまとめて調べたい場合
  • 慢性疾患リスク(例:糖尿病、冠動脈疾患)も含めて将来の健康プランを立てたい場合

5. 注意点と限界

  • 確率を下げる検査であり、完全にリスクをゼロにするものではありません。環境要因や未知の遺伝子変異は残ります。
  • 費用は PGT-A / PGT-M を個別に行うより高め(北米の例で 1 サイクル $6,000–8,000 程度)。
  • GRS は疾患の「なりやすさ」を示す統計値で、生活習慣などにより変動します。解釈には遺伝カウンセリングが勧められます。

6. よくある質問

7. まとめ

Q A
PGT-WGS が「正常」と出れば安心してよい? 重大な遺伝要因を大きく減らせますが、環境要因や未知の変異は残ります。結果をどう活かすかを医療者と確認しましょう。
胚に追加の負担はある? 生検手技は従来 PGT と同じ時期・方法で行われ、リスクは変わりません。
検査結果はどのように説明される? 検査機関または提携クリニックの遺伝カウンセラーが 1 対 1 で説明し、治療方針を一緒に整理します。

Orchid PGT-WGS は、従来法では見えづらかった遺伝リスクを包括的に評価できる選択肢です。検査を検討される際は、費用・検出限界・結果の活かし方を含めて主治医や遺伝カウンセラーと十分に相談し、ご家族に合った計画を立ててください。